このセクションではダム下の地下水の流れを解析ます。 ダムの形状は図20にある通りで、これは[27]の第1章の演習30から採ったものです。 長さは全てフィート(1フィート = 0.3048 m)です。 ダム上流の水位は20フィート、下流側は5フィートです。 ダム底部の土壌には異方性があるとします。上流では浸透特性は k1=4k2=10-2 cm/sで、下流では 25k3=100k4=10-2 cm/sです。 第一の関心は動水勾配、つまり∇hです。パイピング現象が起きるかどうかがこの値でわかるからです。 パイピング現象とは(通所は下流側で)土壌が地下水によって流失し、不安定な状態になることを意味します。 経験則からパイピング現象は動水勾配が一様になる場合に起きることが知られています。
セクション6.9.14から、定常的な地下水流をの支配法定期は熱方程式と同じことがわかります。 全水頭の量は熱流の場合に温度とその速度と同等なのです。この有限要素解析ではSI単位を使用するのでフィートはメートルに換算します。 さらに不透水性の垂直壁が上流、下流のはるか先(実際にはダムの中心点から上流、下流の30m先)に存在するとします。
境界条件は以下のとおりです:
入力デッキは図21に示す通りです。 完全な入力デッキはテスト例に含まれています。この問題は完全な2次元で、CalculiX GraphiXを使ってメッシュを生成するためにqu8要素が使用されています。 解像度を上げるためにダムのすぐ隣ではメッシュを細かくしています(メッシュは図22にある通りです)。
** ** 構造:ダム ** テスト対象:地下水流解析 ** *NODE, NSET=Nall 1, -3.00000e+01, -1.34110e-07, 0.00000e+00 2, -3.00000e+01, -4.53062e-01, 0.00000e+00 3, -2.45219e+01, -4.53062e-01, 0.00000e+00 ... *ELEMENT, TYPE=CPS8, ELSET=Eall 1, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8 2, 4, 3, 9, 10, 7, 11, 12, 13 3, 10, 9, 14, 15, 12, 16, 17, 18 ... *ELSET,ELSET=Earea1 1, 2, ... *ELSET,ELSET=Earea2 161, 162, ... *NSET,NSET=Nup 342, 345, ... *NSET,NSET=Ndown 982, 985, ... *MATERIAL,NAME=MAT1 *CONDUCTIVITY,TYPE=ORTHO 1.E-2,25.E-4,1.E-4 *MATERIAL,NAME=MAT2 *CONDUCTIVITY,TYPE=ORTHO 1.E-4,4.E-4,1.E-4 *SOLID SECTION,ELSET=Earea1,MATERIAL=MAT1 *SOLID SECTION,ELSET=Earea2,MATERIAL=MAT2 *INITIAL CONDITIONS,TYPE=TEMPERATURE Nall,0. ** *STEP *HEAT TRANSFER,STEADY STATE *BOUNDARY Nup,11,11,8.5344 *BOUNDARY Ndown,11,11,3.9624 *NODE PRINT,NSET=Nall NT *NODE FILE NT *EL FILE HFL *END STEP
デッキの始めで節点と要素形状が定義されています。 CalculiX GraphiXではqu8要素タイプはデフォルトでS8(シェル)要素に変換されます。 しかしここでは平面要素の方がより適切です。 問題になっている計算は熱計算であって力学計算ではないので、使うのが平面ひずみ要素(CPE8)か平面応力要素(CPS8)かはたいした問題ではありません。 *ELSET キーワードで2種類の異なる種類の土壌の要素セットが定義されています。 定数の全水頭が適用される節点は *NSET カードで定義されています。 土壌の透水性は熱解析での熱伝導係数に相当します。 *CONDUCTIVITY,TYPE=ORTHO カードを使用することで透水性が直交異方性を持つように定義されていることに注意してください。 このカードのすぐ下の値はそれぞれX方向、Y方向、Z方向の透水性です(SI単位:m/s)。 Z方向の値は実際にはあまり重要ではありません。この方向には勾配は無いであろうからです。 *SOLID SECTION カードは土壌領域に材質を割り当てるために使用されています。 この計算は定常計算なので *INITIAL CONDITIONS カードは本当は必要ありませんが、CalculiX CrunchiXの形式上、熱伝達計算ではこれが必要になります。
このステップの *HEAT TRANSFER, STEADY STATE で追加タイムステップ情報無しで定常計算が選択されています。 つまりデフォルトのステップ長さ(1)、初期増分サイズ(1)が使われることになります。 *BOUNDARY カードで上流と下流の全水頭が定義されています(11は温度の自由度です)。 最後に *NODE PRINT カード、*NODE FILE カード、*EL FILE カードを使って出力を定義しています。 NTは温度、あるいは同じことですが全水頭(図22)、HFLは熱フラックス、あるいは同じことですが地下水流速度(図23のY成分)です。
上流の透水性が高いので全水頭の勾配は小さくなり、下流ではこれが逆になります。 下流では特に流速が重要です。そこでは値が最大で2.25×10-4 m/sに達し(図23の赤い点)、これは動水勾配としては約0.56になります。 下流ではY方向の透水性は4×10-4であるためです。 この値は1よりも小さいため、パイピング現象は起きません。 当然ながら流速はダムのすぐ隣で最も高くなることに注意してください。
この例ではCalculiX GraphiXの熱伝達機能を使用して浸出問題を解く方法を見てきました。 支配方程式がラプラス型である現象にはこれと全く同じ方法を使うことができます。