本類はベルト(調帯)又はロープ(綱)にて両軸に動力を伝動するものを集む。ベルトは通常革製、木綿製なり。革は一枚、二枚合せ、三枚合せあり。木綿製は袋織として数枚をゴムを主材とする糊付とす。綱は通常麻を用い強力を要する場合には鋼索を使用す。動者たる調車にベルトが向いつつ動く側を緊張側と称し被動者へ向いつつ動く側を弛緩側と称す。ベルトが水平あるいは斜に掛かる場合は緊張側を下にするを可とす。之れベルトが調車に巻付く部分を増すにより摩擦を増して調車とベルトとの滑りを少なからしむ。綱車においても同様なり。ベルト又はロープを車に掛けるには車との摩擦を大きくするために相等の張りを要す。
本図は鋳鉄製調車なり。1 は軸 Shaft、2 はボス Boss(又はネーブ Nave)、3 は腕(アーム)Arm、4 はリム Rim。リムは円筒面ならずして右図の如き曲線なり。あるいは左右を円錐面とする中高にす。斯く中凸面にするをクラウニング Crowning と言い之れベルトが調車より外るることなからしむるためなり。近来高速用に鉄板製調車を造る。
軽く且廉価なるために小馬力を伝達するに用いらる。本図に示す製品は二つ割にてボルトにて締合せらるるにより既設の軸に取付又取外しすること容易なり。
ベルトはこの車に掛り導かれて運動す。軸 1 は左右の軸受にて支えらる。又固定軸上に車が回転するものもあり。用途は本類の機構の設明に詳し。
普通の調車。Common Belt Pulley.
縁付調車にしてベルトの外れを防ぐ。又案内車として用いらる。Flanged Pulley.
半丸溝綱車にして主として案内車として用いらる。Concave Grooved Pulley.
刻目付V字溝綱車にして索の滑りを防ぐ。V Grooved Pulley.
3 の車の溝底に数多の鋲頭を作り以て綱との滑りを防ぐ。
V字溝綱車。(306) はその例。
鎖車(スプロケット)Sprocket Wheel 第十五類を見よ。
調車 2 は軸 1 に固定し軸と共に回転す。調車 3 は軸 1 上に回転す。この調車が被動者なればベルトを 2 を掛けるときは軸 1 は回転するが 3 に掛けるときは 3 は回転するのみにて軸 1 は回転せず。4 は鍔((6) を見よ)にして 3 が軸の方向に移動するを防ぐ。
歯車 4 は軸 1 に対して自由に廻り得べく六個の溝 5 にはそれぞれ腕 9 より出づるピン 3 が入る。小歯車 6 によりて歯車 4 を廻せば調車の直径を少しく加減し得。爪 7 は小歯車 6 の回転を防ぐ。
左図は麻索を掛ける綱車のリム横断面を示す。麻索 7 はV字形溝の両側にて支えられて底 4 に触れず。右図は鋼索を掛ける車にして 2 は木又はゴム等の弾性体を以てす。綱索 1 は 2 に触る。ワイヤーロープ車 Wire Rope Pulley の名あり。左図は麻ロープ。
上図は調整に接触する面にして綴革は並行す。下図は裏面を示し綴革は綾を為す。綴革は二筋にす。本式は小馬力伝達のものに使用す。工作機械、諸製造機械には多くこれ式のベルトを用いる。斯の如き接方を突合接手 Butt Joint と言い (308) の甲乙丙丁等を重接手 Lap Joint と言う。小馬力用には幅狭き金属板帯を上図の如く並行に通じてその裏に両端を曲げてカシメる如き綴じ方を為すものあり。
甲. 銅製鋲頭ネジにてベルトを接合す。ナットの部が外面に向き鋲頭の滑かなる面が調車に触る。
乙. 銅製鋲にてベルトを接合す。革ベルトを削りて接合部を一枚厚にす。
丙. 革ベルトを膠着しその上を細かく縫いたる接合。
丁. 丙の接合の上に銅製鋲を用いたるもの。
戊. ベルトの両端に鋼線を貫きて縫い線金を貫通しその両端をカシメて抜け出ざらしむ。鋼線は螺旋形にして特種機械にて縫付を為す。
己. アリゲーター Alligator 釘列を為す部分をベルト端に打込みて鰐魚が食いたる形にし之を戊と同様の方式にて合目を通じて線金を貫通せしめその端をカシメて抜け出ざらしむ。
大馬力の伝達には丙、丁の如き縫目に接合して一環としたるいわゆる輪ベルト Endlles Belt を用う。
強大なる力を伝達するに用いられ三枚重ベルトに比してたわみ易く且如何なる幅にても作り得る利あり。長を縮めんとするには鋼製の針金 1 を引抜きてリンク 2 の列を取除き再び針金 1 にて縫う。
甲図は開きベルト Open Belt にして 3, 4 両調車は同一方向に回転す。
乙図はタスキ・ベルト Grossed Belt にして 3, 4 両調車は反対方向に回転す。
調車 1, 2 は案内車 3, 4 によりて動力を伝う。両軸 1, 2 は左右何れの向きにも回転し得。
左図は側面図。軸 1 の調車 8 は案内車 6, 7 によりて接近する並行軸 3 の調車 4 に動力を伝う。両軸の 1, 2 は左右何れの向きにも回転し得。
下図は平面図。水平軸 1 の調車 3 は案内車 5, 6 によりて垂直軸 3 の調車 4 に動力を伝う。案内車 5, 6 は縁付調車。両軸 1, 2 は左右何れの向きにも回転し得。
並行軸 1, 2 に取付けたる調車 3, 4 の中央面は一致せず。案内車 5 は調車 3 の中央面に接し、6 は調車 4 の中央面に接す((318) の要件を見よ)。両軸は矢の方向に伝動す。ただし矢と反対の方向に廻すときはベルトは外づる。
本図は両軸 1, 2 が 15° 以上の交角を為し且同一平面上にあるとき二個の案内車を用いて伝動する方式なり。案和車の関係的位置は (314) と同一にす。矢と反対の方向に廻さばベルトは外づる。
本図は両軸 1, 2 の交角が 15° 以上にして且同一平面上にある場合に一個の案内車 5 を用いて伝動する方式なり。調車 4 に向いて進むベルトの中心線は 5 によりて 4 の中央面にあらしめ 4 を離れて 3 に向いて進むベルトの中央線が 3 の中央面にあらしむ。両者は矢の方向に伝動し得。反対に廻さばベルトは外づる。
本図は二個の案内車を用いて直角にして且相交らざる二軸に動力を伝達する方式なり。
軸 1 は左右何れの向きにても軸 2 に伝動し得。
軸 1 の矢の向きの回転は之と直角方向の軸 2 を回転す。ベルトが調車に向うときはベルトの中心線は調車の中心面上にあらしめ離るるには 15° 以内の角を以てす。両軸を反対に廻さばベルトは外づる。
上述の規則は次の如く言い表わし得:
乙図の如くベルトを掛けその接点 3, 4 を連絡する直線 34 を折目として軸 1 を 90° 回転して甲図の如くあらしむ。ただし乙図において直線 34 は斜なるベルトの方向と 15° 以内の角度たるべし。
並行軸 1, 2 に取付けられたる調車の組 3 と 6、4 と 7、5 と 8 は何れも同一のベルトを掛けて伝動し得る大きさにす。動軸 1 の回転速度の一定なる場合において被動軸 2 を三様の速度に回転し得。工作機械伝動等に応用せらる。
1, 2 は並行軸。ベルトを右あるいは左に寄することによりて両軸の速比を種々に変化し得。右図はベルトの寄る距離と速比の増減割合とが正比例をなす形。左図は同一の円錐を反対の向きに取付けて雨軸の距離大なる場合に限り使用す。ただし閉じベルトなれば軸距離小なるも可なり。使用する革寄 (331) はネジ送にして確とその位置にベルトを支持せしむ。ただし 1 が原動車。
1, 2 は並行軸の調車。案内車 3, 5 及び調車 4 の軸は何れも軸 1, 2 と直交す。索あるいは幅狭きベルトは 4 より左右の 3, 5 に掛かり 1, 2 を巻きて一周す。軸 4 の回転は軸 1 及び 2 を同時に回転せしむ。
張り車 3 の軸を支持するテコの他枝 7 の錘 5 は 3 を強くベルトに押す。之によりて調車 1, 2 に掛かるベルトの滑りを防ぐ。綱車にも用いらる。本仕掛は二軸の距離近くして滑りを生じ易き場合に用いらる。
3, 4 は同一軸上に空転する案内車にしてその軸は滑車 5, 6 に掛かる錘 7 にて曳かる。ただし錘の重量の大なる程、綱の緊張大なり。綱は 13241 の順序に巻付く。本仕掛は軸間短き場合に両車 1, 2 に掛かる綱の滑りを防ぐ。
綱にて強力を伝うる場合において綱車の滑りを防ぐために各々二三廻し且綱を充分に緊張せしむるために錘と案内車 6 と 5 を用う。
1, 2 は並行軸。5, 6 は固定調車、4は非役調車。3 は固定調車。7 は開きベルト、8 はタスキ・ベルト。図の位置においては二軸 1, 2 は反対の向きに回転す。8 を左に寄せて後 7 を点線の位置に移さば 1, 2 は同方向に回転す。
3 は輪ベルト。相等しき円錐車(コーン)1, 2 はその軸並行にして両者の隙間を ベルト 3 の厚よりも少しく狭くして之を押す。3 は革寄によりて左右に移動せしめ得。動者 1 は被動者 2 を回転せしむ。而して 3 の移動によりて 1, 2 の速比を種々に変化せしめ得。
2, 3 は直立軸に固定する調車。水平軸の調車 1 が矢の方向に回転するときはベルトを 1, 2 に掛け又 1 が矢と反対に回転するときは点線図の如くベルトを 1, 3 に掛ける。(318) の規則を見よ。
腕 2 は軸 1 の周囲に回転し得。軸 1, 3 に固定する調車 4, 5 は定長のベルトにて回転を伝う。軸 3 は軸 1 の周囲を廻りつつ回転す。錐揉機械等に応用せらる。
腕 2 は軸 1 に対し又腕 3 は軸 4 に対して回転し得。調車 6 と 7 及び 8 と 9 には何れも定長のベルトを掛ける。軸 1 の回転によりて軸 5 は回転す。而して軸 5 は軸 1 の周囲何れの位置にも移動し得。
33 は回転せずに左右に動く。之に直角に出でたるピン 4 はテコ 2 の溝に入る。二本の棒 5 はベルト 6 を緩く挟む。図示の位置にてはベルト 6 は調車 7 に掛かる。2 を右に寄するときはベルト 6 は調車 7 より外れて調車 8 に掛かる。
1, 2 は並行軸。調車 3 は軸 2 に固定し、調車 5 は遊動す。6 より突出でたる並行なる二本の棒 7 はベルト 9 を緩く挟む。革寄せ 6 を右あるいは左に移してベルト 9をあるいは 4 あるいは 5 に掛ける。斯様にして軸 1 の回転を軸 2 にあるいは伝え、あるいは伝えざらしむ。
ベルクランク 56 によりて円錐噛合車 4 を右又は左に移してV字形車 3, 4 の径を変じ得。綱又は簾ベルト等にて動力を伝う。
11, 12 は並行軸 1, 2 の調車。平たき円錐車 3, 3 は溝とキーの仕掛によりて軸 1 と滑りツガイを為し共に回転す。4, 4 と軸 2 は同一構造なり。テコ 7 は 3 のボスのくびれにピンを入れピン 9 を中心として揺動す。4, 7 も亦同様なり。6 は左右ネジを刻む。6 を捩りて 3, 3 及び 4, 4 の各距離を変えてベルト 5 の掛かる径を種々変え得るにより両軸 1, 2 の速比を種々に変化し得。ネジ 8 を捩りてベルトの張りを加減す。ベルト 5 は楔形の木片をベルトに鋲付せる簾ベルト。
本図は調車にて動力を伝達する場合の一例にして天秤機関にて扇風機を運転す。上部の 2, 3 及び 4, 5 はそれぞれ同一軸に取付らるる調車にして中移軸。勢車 1 は扇風機 6 を回転す。3, 4 はタスキ・ベルトなるにより 1, 6 は互いに反方向に回転す。
並行軸 1, 2 にV字形溝付調車を取付け之に輪ゴムベルト 3 を掛けて動力を伝う。ゴムの緊張によりて滑り少なし。自動車、工作機械等に用いらる。