自ら回転せんとする歯車が他部分の運動に束縛せられて歯一枚ずつ間欠的に送らるる仕組にして時計においてその例を見る。ただし歯車の回転は巻バネ又は綱と錘等の仕掛による。
4, 5 をパレット Pallet と言う。アンクル 2 は 3 を軸として左右に振る。逃シ止車 1 は巻バネ又は巻綱と錘との仕掛によりて左回転せんとしパレットは之を防ぐ。5 が 9 に当るとき 4 は歯間にあり又 4 が歯に当るとき 5 は歯間ある仕組なり。2 の一振動は 1 を歯一枚ずつ送る。西暦 1656 年英国機械学者フックスの発明なり。同氏はニュートンと同時代なり。
上者の変態なり。パレット 3, 4 は軸 2 に固定しアーム 25 も亦軸 2 に固定す。アーム 25 の一振動は逃シ止車 1 を右廻に歯を一枚ずつ送る。
2, 3 はパレット。星形車 5 は回転せんとしパレットの何れか一つが之を防ぐ。パレットの一振動は 5 の歯を一枚ずつ送る。
6 は半円よりもやや少なき部分が欠け取られたる筒にしてその両端より出でたる軸 8 (紙面に直角なる方向)を軸として適当の角度に振動す。其一振動は逃シ止車 5 の歯を一枚ずつ送る。之をグラハム・シリンダー逃シ止 “Graham” Cylinder Escapement とも称し、ジェニーバ製時計に応用せらる。西歴 1695 年トーマス・トムピヨン Thomas Tompion 発明し、ジョージ・グラハム George Graham 之を改良せり。リコイル無し。
ピン 6 の突起する円板(ディスク) 8 の左右一振動はパレット 2, 3 によりて逃シ止車 5 の歯を一枚ずつ送る。トーマス・マアジ Thomas Madge 発明す。
アンクル 2, 3 の左右一振動毎に逃シ止車 5 のピン 4 を 一個ずつ送る。仏人アマン Amant 発明す。リコイル無し。
パレット 2, 2 は逃シ止車 5 の歯 3 と組みパレット 1, 1 は 5 の裏面突起する歯 4 と組む。6 の右左一振動は逃シ車 5 の歯を一枚ずつ送る。止車 5 の次を一枚ずつ送る。西歴 1724 年ヅタットル Dutertre 発明す。
17 は 奇数の歯を有する冠車。 紙面に直角なる軸 14 には振子 16 が取付く。パレット 12 は前面の歯 1 に、パレット 13 は後面の歯 6 と組む位置にあり。冠車は前面より見て歯が左より右に進む如く回転す。振子 16 が左より右の点線の位置に進まば 1 と 12 は外づれて 6 と 13 が突き当る。次に点線の位置より実線の位置に移るときは 6 と 13 は外づれて 11 と 12 が突き当たる。斯くして振子の一振り毎に冠車は歯一枚ずつ送らる。
標準時計逃シ止を有する時計を標準時計(クロノメーター)と称し天文観測、航海者に使用せらる。 前に説明せる逃シ止の多数は振子もしくはパレットの振動の幅によりて逆戻りを為す。之をリコイル Recoil と称す。標準時計逃シ止はリコイルを為さず。長きパレット 2 と短きパレット 3 の軸には蔓巻バネ付振子車ありて左右に振る。下端がデテント 6 に取付く甚だ弱きバネ 4 の上端がパレット 3 に当たり得。2 が左振して 3 が 4 を押さば 6 は右へ動くにより爪 5 が外づれて逃シ止車 1 は右廻して歯一枚送るが直にパレット 2 に支えらる。この時 3, 4 は外づれてバネ 18 は 6 を左側へ戻すにより爪 5 は歯 8 に当りて之を受く。バレット 2, 3 が右振するときは 2 は歯に当らずに進み且 3 は 4 を容易に弾きて進むが蔓巻バネは振子の運動を止め再びパレットを左振せしめ以て前述の運動を繰り返す。故にリコイル無し。
パレット 2, 3 は平面を異にす。本図の作用は (488) の説明にて詳なるにより省く。
標準時計逃シ止は西暦 1765 年ル・ロイ Le Roy の発明にして、後西暦 1780 年アーンショウ及びアーノルト Earnshow and Arnold 之を完成せり。